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ゲームレビューの価値

ゲームレビューというのは思ったよりも歴史が長い。

ビデオゲームに魅了された人々は、もしかしたら間違いなくレビューを求めていると言っても過言ではないのかもしれない。レビューそのものはひとつの「商業」ジャンルとしてすら成り立ちを続けてきた…… という事実がこれを裏付けているとも言える。

いや……? 消費者はただ単に「失敗した買い物をしたくない」だけなのかもしれない。有用なレビューは、自身のゲーム体験から無駄を削ぎ落す。そういう可能性を高めてくれる。それこそがゲームレビューの価値…… 本当にそうだろうか。

 ◆ゲームレビューという仕事

現在、ゲームレビューというのは「それを主業務とする企業」がある程度には需要がある。IGNなどが有名だ。彼らはイチ早く新作のレビューを行い、数値として評価まで下し、どんなジャンルを求めるゲーマーに最適かまで教えてくれる。

それは…… わかりやすい需要と供給の姿だゲームは安くない。金額的にも、そして時間的にも。映画や小説と同じように、限られたリソースを使うことでしか、世のゲームを楽しむことはできない。有限の資源であるからこそ、消費者は「無駄を嫌う」傾向にある。

事実として「クソゲー」はいっぱいある。お金や時間を消費して損した!なんて思ってしまうことは、やっぱりある。だから、レビューは重要な位置を占めるに至った。これは当然の話である。

IGNが以下のような記事を書いている。タイトルは「ゲームレビューにまつわる5つの問題」である。読むのが面倒な人のために掻い摘んでしまえば「レビュワーがどうしても悩むところベスト5」といった内容だ。

jp.ign.com

ゲームレビューという仕事の姿を、これだけでなんとなく想像できるような気がする。正直で、ありのままを語っているなと僕は思う。IGNは批判もよくされるが、有名になっただけあるなと個人的には思う。

今回のブログで書きたいことは、この先の話になる。IGNの例を出したのには理由がある。彼らの立場というものを一度、確認しておきたかったのだ。

仕事としてのゲームレビューは目的が明確である。簡単な表現をしてしまうが、先ほどから言うように「いかにして無駄のない(ゲームの)買い物をするか」というゲーマーの要望に応えるというものだ。

リンクとして引用した「5つの問題」は、すべてこの点に対する壁にぶつかった姿である。誰かが「損をしないようにゲームを買う」為のレビューだからこそ、この5つの問題が起こる。つまり、目的に対する問題なのだ。

ぶっちゃけて言おう、IGNは「レビュワーとしての問題」などとまとめているが、これは正確じゃない。なぜなら、別の目的を設定してみたとき、必ずしもこの5つの問題が発生する訳ではないからだ。ゲームレビューというのは、もっとの価値を生む可能性がある。僕はそれを今日語りたい。

◆ゲームレビューの別の目的

「5つの問題」はそれぞれ、新作をこれから買おうとする人に向けるという目的だからこそ発生したものだ。確認してみよう。

 

1:全体評価の問題→ これから買おうという人にすべてを語る訳にはいかない

2:プレイ時間の問題→ 発売前からレビュワーはそんなにプレイ時間を割いている訳にはいかない

3:マルチプレイの問題→ 発売前は不特定多数のプレイヤーを確保した状態をレビューできない

4:ネタバレの問題→ プレイ前のゲーマーにプレイ体験を語る訳にはいかない

5:続きものの問題→ リリースを待って評価できない

 

太字にした部分に注目してほしい。上記はIGNの記事を要約したものであり、僕の意見ではない。共通項が分かるはずだ。IGNのような商業ゲームレビューは、その目的からして「要はネタバレできない」という問題がおこる。5つの問題はほぼすべてこれで説明がつく。

IGNに反抗するという訳ではないが…… 正確に表現するならば「商業ゲームレビューにおいて発生する5つの問題」ということになる。

失敗しないゲーム選びの為のゲームレビューならば、5つの問題は本当に切実なものだし、正しい分析をしているなとも思う。IGNはそうした知見が蓄えられているのだろう。批判も称賛もされてきたに違いない。

彼らはプロとして、その「微妙な問題をかいくぐったギリギリの価値ある情報を綴る技術」を日々磨いている。そう、彼らはプロなのだ。僕の個人的な思いとしては、このプロたる技術と熱意を、その目的だけで終わらせてほしくないと思っている。

端的にいえば、別の目的をもったゲームレビューも行ってほしいのだ。

もっと正直に言えば、ネタバレや時期を無視した「ガンガンに濃密な分析を行ったレビュー」もやってほしいのだ。

<ゲームタイトル レビュー>といった形でググるとよくわかる。IGNなどの商業レビューがヒットして羅列された時、画面にはそのゲームの発売前後の時期の記事ばかりが並ぶのだ。基本的には、発売してしまえば新たなレビューが書かれることはない

◆あの頃の情報交換

これは世代によって受け取り方に差がある話なので申し訳ないことなのだけれど…… ファミコンスーパーファミコンやプレステといった時代に小中高の生徒時代を過ごした人は、新作についてクラスでひっきりなしに情報交換をした記憶があると思う。

今でもそれは可能だが、基本的にはネットがあるし、その比重もほとんどがネットなのだろうと思う。友人との会話はあっても、既に知られた情報である。クラスでの情報交換は「お互いによる濃密なゲームレビュー」であったのだ。

それは既に同じゲームを買った者たち同士の語らいである。どこまでやった?アレは見つけたか?仲間は何人になった?あのシナリオはどうだった?俺はこう思う… お前はどうやった… そういうことを大興奮で語りまくったのだ。

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※「コレ遊んだか!?」 新作の次の日は 早く友達と語りたかった

お互いにネタバレを考慮し合いながら、根底には「もっと面白く感じられる自分なりの何か」を力強く語り・共有しようという発露だったのではないかと思う。

こうしたレビューの内容は、今でもできる。Steamのユーザーレビューはこれに近いかもしれない。(実際には、Steamのユーザーレビューも「これから買うことを検討している人」に向けたものが大半だが)

僕は、いわゆるゲームレビューにこの方向の目的があって良いと思う。思うし、是非プロの全力で分析したそれらを見たいのだ。

◆徹底した分析のゲームレビュー

なぜ僕がこれほどまでに、こうしたレビューを望むのか。その理由の一つは、レビューそのものをエンターテイメントとして捉えているところがあるからだ。既に知っている内容であっても、丁寧に解説してあるものを読むのは楽しい。小説のあとがきや巻末解説を読むのが好きな人もいるだろう。作品分析というのも、また一つの作品足り得るのだ。

また別の理由もある。僕はここにこそ「プロのちから」を期待したい。それは、プレイヤーが通常ではなかなか気づけなかった範囲を解説してくれることである。

ここにひとつの個人ゲームレビューサイトを紹介する。非常に歴史の長いサイトで、もしかしたら見たことのある人もいるかもしれない。奥の方までいきなりリンクを張ってしまう訳にもいかないので、トップページを紹介したい。

PCゲーム道場

個人ゲームレビューサイトということから、先にあったIGNの「5つの問題」をブチ抜いたようなレビューが並ぶ。個人的にはBIOSHOCKの「ストーリーネタバレ解説」が好きで、何度か読むに至ったのを覚えている。(ぜひ、名前順→BIOSHOCK→ストーリー解説 ネタバレ注意 のリンクをたどってほしい

BIOSHOCKを例に挙げたので、大雑把に僕が思うことを綴りたい。

現時点においても、BIOSHOCKは「魔法のようなことも扱えるFPS」「アール・デコ調を採用した異色のFPS」といった評価が固い。IGNの発売前レビューを見ても、基本的にはこのような評価が目立つタイトルである。

ここでネタバレをするつもりはないので詳しくは書かないが、個人的にBIOSHOCKは「ゲームだからこそできる表現を行った」ことを強く評価している。先の個人ゲームレビューサイトの、ネタバレ解説でもこの点について極めて詳しく解説されている

ゲームシステムという問題ではない。プレイヤーとして主人公を演じる上で、どうしても避けることのできない体験を表現した。それは小説や映画ではできないものだったのだ。

僕はこのレビューを読んではじめて「確かにそうだ!」という感動を得られたのを覚えている。ゲーム内でのいわゆるシークレットというわけではない。通常にプレイしていても、なかなか気づかない部分というのは実はたくさんあるのだ。

◆商業のジレンマ

商業ゲームレビューとは、端的に「ゲームの売り上げに貢献する行為」には間違いない。ゲームレビューが商売として成り立つには、誰かの利益に与したものでなければいけない。

だから、商業ゲームレビューは「タイトルが最も注目されている時=発売する前」にギリギリの内容を綴ることが最大効率の営業行為ということになる。

発売されてから時間が経つほど、その効率は劣化する。それも急速に。

今、商業ゲームレビューのレビュワーはプロとして「タイトルが発売する直前」に全力を出すことになっている。だが、その全力は「5つの問題」の範囲内に収まってしまう。僕は、とてももったいないと思っている。

当然、ゲームが発売されて時間が経過した後のレビューは営業行為としての価値が低いと想像できる。ネタバレもすべて含めて、ものすごい濃度の、分析しきったレビューを書いたところで、レビュー企業に利益はおそらく生まれないだろう。だから、先ほどから僕が求めているようなことをプロに希望するのは、酷なことであるのは間違いない。

しかし、発売前のゲームがどんなモノかという紹介は結局「ニュース」に過ぎない。ニュースにはニュースの需要があるが、僕はレビューというには物足りないと感じている。ニュースはニュースの、レビューはレビューの価値がある。ゲーム業界の只中を仕事として駆け巡るプロ達が、全力で作ったレビューを僕は見てみたい。

そういう深い分析レビューは恐らく、ここまで発達したネットの集合知に速度も密度も負けてしまうこともあるかもしれない。あらゆるゲームを触らなければならない職業レビュワーが、一つを極めた一般プレイヤーに叶わないかもしれないという事実は厳しいものだ。

しかしながら、企業としてのレビュワーでなければ出来ないことがきっとあるはずだ。5つの問題を恐れず、ゲームの作者でも、プレイヤーでもない立場として行動できるプロの記事。発売した後に作成される、もはや哲学解説とも言えるような記事が出てくることを、僕は心待ちにしたいと思う。

BIOSHOCKをプレイ済みの人はぜひ、先に紹介した個人ゲームレビューサイトのネタバレ解説をじっくり読んでみて下さい)